墓参り 墓というものは、必ずしもその奥底に、骨と一緒に重く冷たい悲しみをうずめているという訳でもない らしい。 事実奈南川はその墓の前に立った時何の感慨も覚えなかった。 ただ、自分が彼と――『キラ』であった火口と、同じところへ行くことになるのは、そう遠くはない先 のことなのだろうという事だけを、漠然と感じていた。 墓石に手を触れ、一週間振りだと呟いた。石は体温の低かった火口の手よりもさらに冷たい。 すでに誰かが来た後なのだろう、墓の周りはきれいに片付けられ、白い菊花が品良く供えられていた。 「私なら、こんなことにノートを使いはしなかった。こうして無駄に命を落とすこともなかった」 何故死んだのだ、と。火口の死をきっかけに、張り詰めていた糸は、面白いくらいにあっさりと切れて しまった。これからのヨツバの未来など、想像するまでもなく目の前にまざまざと浮かんでくるような 悲惨なものだ。 そのことについて腹を立てているのではない。むしろ奈南川はそうなるべきだったとさえ思っていた。 しかし。 終わりは、こんな形でなくても良かったはずだ。 せめてもうすこし、生きて考える時間を、与えられてからでも良かっただろう。 「何故死んだ」 もう一度、声に出して呟いた。声は空回りするように消え、奈南川の耳の中にだけ残像をのこした。 「奈南川。水、汲んできた」 三堂が柄杓を冷たい灰色の石の上に掲げる。水はただ重力に従って砂利に染みた。 水を吸った石はいよいよ冷たく、鈍い光を放つ。 この下で、火口は何を考えているだろうか。奈南川のことを恨んでいるか。憎んでいるか。いっそ忘れ てしまっているかもしれない、そのほうが火口には良いだろうと奈南川は思う。数えるのも虚しいほど 人を殺した人間に、それならばせめてこの世界に未練なぞ抱かずに、やすらかに消えていってほしいと 望むのは、少し虫が良すぎるというものだろうか。 「もうそろそろ行くかい?」 奈南川は三堂の声に黙ってうなずく。空は抜けるほど青く、高いところに大きな黒い鳥が、弧を描くよ うにして飛んでいる。一日はこれから後半を迎える。 奈南川がどんな人かというのは、未だに自分の中で固まっていなくて困っています。 まあ優しい人だったんだろうとか、そんないいかげんなイメージしか(笑 奈南川の優しさは、目に見える、あえて言うならばいい加減な優しさじゃなくて、もっと強さに裏づけ されたような優しさであってほしいと思っています。灰。