聖夜 閑散としたヨツバ本社を出ると雪が積もっていた。 こちらでは見ることの珍しい光景だ。雪曇りの空はまだ止む気配すら無い。 しばらく雪の落ちる様子を眺めていると、背後に人の気配がした。等間隔に響く足音は奈南川のもの だ。 「また来ていたのか」 先に話しかけたのは奈南川のほうだった。そのことに内心驚きながら、アイバーは奈南川のほうに向 き直り、樹多に相談することがあったなどといい加減な理由を口にした。 間が、ただでさえ冷たい空気をよけいに冷やすような気がして、アイバーは他愛も無い話題を口にす る。奈南川は元々話をする気などないらしく、適当に相槌を打って去ろうとした。 傘を開きながら、アイバーはその背中に思わず声を投げかけた。 「濡れて帰るおつもりですか?」 知らず、笑いを含んで響いたかもしれない。詐欺師として常に完璧に本心を隠すことができたはずの 彼にとっては、それは非常に珍しいことだった。 奈南川の足が止まり、代わりにその口から溜息が零れた。 この大雪の中を歩いて帰ると、コートの中まで濡れてしまうのは確かだろう。 タクシーを呼ぶとまたしばらく待たなければならない。 思案するほんの短い時間も与えず、アイバーは奈南川の肩を強引に引き寄せた。その想像した以上の 薄さを感じながら、アイバーは大股に歩き始める。恐らく、奈南川の歩行に一番適した速度で。 「コイル。歩きにくい、放せ」 奈南川はアイバーの、偽の名前を呟いた。 アイバーは不意に、本当のことを全てばらしてしまいたい衝動に駆られる。もしこの人との付き合い が、仕事と無関係であったらどれほどよかったか。そう思わせるほど、奈南川はアイバーにとって意 外な存在だった。 「コイル?」 沈黙を不審に思ったのか、奈南川が顔を上げた。白い息が首の辺りにかかる。 「何でもありませんよ。ところで、今夜はどこかにいくご予定が?」 アイバーは笑って答えた。 日付はそろそろ、25日に変わる頃だ。
アイナミで、ハッピーなクリスマスSSを目指しました。もっとね、心温まるような話に出来たら良か ったんだけど。やっぱり書けませんでした。涙。 これはきっと、みぞれみたいな雪がぼたぼた降ってたんですよ。異常気象の産物ということで許して やって下さい; もうすぐクリスマスです。皆様の上に祝福がありますようにv