「日本の由緒ある伝統行事なんだろう? それはぜひ
やってみなきゃ!」
二月三日、コイルが白々しくそんなことを言いだした。
彼のことだから伝統行事など、その辺の日本人よりは
詳しいはずだ。まず第一に詐欺師なのだから信用して
はならない。まぁ、営業の人間に言えることでもない
のだが。
「じゃあ…豆まきでも?」
まったく冗談じゃない。何が悲しくて三十男が自分よ
りも年上の男のためにそんな子どもじみた迷信に付き
合わなくてはならないんだ。
「うん、確かに邪払いのために豆をまくレイジも魅力
的だけれど。それよりも、恵方巻きじゃないか?
やっぱり」
「何で…」
恵方巻きか。それならいいかもしれない。美味い寿司
を食うのは悪くない。
「…三堂にでもいい店をきいておこう」
「三堂? その必要は無いよ僕が知ってる。明日情報
収集がてら買ってこよう」
三堂の名前が出た途端にコイルの声の色が変わった。
彼は三堂について何か勘違いをしているらしい。
「レイジ!」
窓の外は雪雲が晴れて、珍しく星が出ていた。奈南川
がロビーに出ると、エラルド・コイルは嬉しそうに紙
袋を掲げた。有名な寿司屋のロゴがはいった上品な紙
袋だった。
「別にこんなところので無くてもいいのに…」
「何をおっしゃいますやら。ヨツバ本社の第一営業部
部長が」
「俺にはブランド志向はない」
「そう? まぁいいや。帰ろう!」
鬼が闊歩しているといわれる二月三日の夜の風は、心
なしか、いつもよりも暖かいような気がした。
「…本当にこれをこのまま食うのか? 切ったほうが
食べやすいと思うが」
奈南川は不服だったが、コイルはとんでもないという
ように首を振った。
「全く、何だってこんな太いものを…」
「太いほうがいいだろう? それともレイジは軟弱な
のが好みだったのか」
「はぁ? 細い寿司は軟弱なのか。まぁいい」
レイジの口はあまり大きくはないから、食べるのに少
し苦労しているようだった。それでも営業の人間らし
く(というのだろうか)、上品な食べ方。レイジの朱
い唇が開いて恵方巻きを咥える様子はひどく扇情的だ。
うっとりと眺めていると、レイジが何やら不審気な面
持ちで僕を見上げる。
「…コイルは食わないのか」
「てゆうかレイジ、イッていい?」
即座に状況を理解できなかったらしいレイジは、頬を
痙攣させながらも平静を装って、黙々と恵方巻きを食
べ続けた。
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げれつーーー
去年のネタですが、まだおぼえておられる方いらっしゃる? 笑
言いたいのは、恵方巻き食ってるヒトってなんかエロいって、
そんだけなんだけどね!
ゆっておきますが、このネタしたいって瀬名が勝手に思った
んじゃないですからね!
まめas黒田百華ちゃんがお題を出してくれたのです**
レイジの一人称に迷った…一応まだ会社やしなーでもアイバー
とめくるめくプライベートライフにもう突入してるか? とか
てか寿司屋のロゴって何…
もーボキャブラリたりん!!