死神



「なぁ奈南川。死神って、いると思わねぇか?」
そんなことを聞いてみた。現実主義の奈南川には、どうせ馬鹿にされるに決まって
いると、解かってはいたのだが。
奈南川は予想通りの、呆れ返ったような表情をして火口を見返した。
「死神、だと?」
「あぁ…ま、冗談だ」
視線が居心地悪かった。
「いる訳が無い。お前は何時からそんな非現実的なことをいうような男になった?」
「だが、キラだっているんだぜ?」
奈南川の動きが一瞬とまった。それから視線がわずかにずれる。
「キラか」
面白がるような薄い笑み。ヨツバの中のキラと自分達の殺人会議にうんざりしかけて
いる者もいる中で、その存在を今も肯定的に考えているのは奈南川ぐらいだった。
案外、奈南川は火口に似ているのかもしれない。
「そうだな、確かにキラは死神だ。だが所詮は人間じゃないか」
火口は目を細くした。
「そんなことを言っていいのか? お前だって殺されるかもしれない」
そうだ。火口は何時だって、奈南川を消してしまうことができる。
「だからこそ、じゃないか。キラは私たち八人の中にいる、対等な立場に立つ人間だ。
そうでなければ会議などしないだろう」
媚びへつらう必要はない、と。
ああ。
だから、俺は奈南川に惹かれるのだ。
だから、俺は奈南川に殺意を抱く。
「まあでも、もしそんなものがいたとしたら、色々と面白いことになったかもしれ
ないな」
死神が、これを聞いて静かに微笑ったようだった。

それは違う、奈南川。
実際死神は存在するが、それでもお前はただ死んでいくんだ。
本物の死神ではなく、キラという名の、火口卿介という名の死神の手によって。
「たしかに」
口角が吊り上がるのを感じた。


「面白いことになるかもしれない」