理由。 理由など、必要ないではないか。 俺に楯突く奴は死ねばいい、俺に都合の悪い者は消えればいい。 手懐けられない猫には制裁を加えればいい。 「人を殺す理由? そりゃ、ヨツバの進展のためだろうが。」 火口は低く笑って言う。死の会議、誰からともなく発された問い。 皆が望んでいるのはその程度の答えではない。奇麗事や、建前など では。それは火口も充分に承知している筈だった。わかっていては ぐらかすのだ。火口がキラであることは、この中の殆どがすでに気 付いているというのに。奈南川は軽く苛つきながらも、口角をわず かに上げたポーカーフェイスを崩さない。 「ここでこんな話をする意味があるのか? 無駄話は会議後にすれ ばいい」 どうせ彼の真意など探れないのだから。 そうして会議は滞りなく進む。あまりにも軽やかに、身勝手に人の 命の重さを決め付けながら。 「では、今週殺すのは………、の3人でいいか?」 「異議なし。」 お前はいつまでそうして白を切りつづけるつもりだ、火口。 自分で認めちまったら引けなくなる。ここは何を言われてもかわし 続けるのが得策だな。 皆もう気付いている。 どうせ誰も言い出す勇気なんてないだろうよ、俺がキラだってばれ たところで、それに何の意味があるっていうんだ。誰だって自分の 命が惜しい。 「では、今週の定例会議を終わる。」 8人分の足音と、それぞれのあからさまに疲れた顔つき。 毎週これを続ける憂鬱さと、どうせすぐに殺されて会議の習慣も終 わるだろうという諦念が浮き出ている。 「珍しいな、今日は開発室に寄って帰らないのか、火口。」 そういう部分は入社当時から変わらず律儀な火口だった。どことな く歪みはじめた彼の眼差しの中にも、その律儀さは依然として残存 しているように思えた。 「ああ…最近は、そういうことはあまり。」 「以前は室長の義務だと言っていたが。」 「はは。そんな時もあったか。」 お前は何を考えている? 「なぁ、奈南川。そろそろ疲れてきたな、この会議も。」 お前は何を考えているんだ。 キラであるお前ならば、会議を止めることもできるだろうに。 奈南川は眉をひそめた。営業部部長らしい、感じ取るのが難しい程 度の感情の吐露。しかしそれは火口にも通用するわけではなかった。 そういう次元の問題ではないんだ。奈南川。 火口は諦めを含んだ笑みを零した。 「俺がもしキラだったら。」 火口は悪戯っぽく言った。 「俺がもしキラだったら、きっと今のキラのようにはしなかっただ ろうな。会社なんか通さないで自分のためだけに力を使って、ああ、 嫌いな奴は片っ端から消してただろうよ。」 そんな風にできたらよかった。手を付けられないほどの馬鹿になっ て、正直に生きていけたら良かった。今更もう手遅れなのだとは知 っているけれど。 「そうか。」 奈南川が小さくため息を漏らしたのが聞こえた気がした。 こうなってしまった理由? 理由なんてない。単に俺は弱くて卑怯だった。 そして俺は奈南川を手懐けることなどできないまま、こうして終わ っていくのだろう。 奈南川が物分りのわるいかんじですいません… 火口が大好きです。彼の立場と性格にやったら惹かれる 笑笑” 視点、コロコロかわってます。これをスマートにできる人に憧れたんですが、 初心者な瀬名がやるとぶさいくなだけで終わってしまった…涙; 2008/3/30.