「私は望まれるままに育つことが出来たと思うか?」 短い残業が終わった後だった。 何とはなしに窓の外の街路樹を眺めていると、奈南川が突然そんなことを言った。 「何で……」 三堂は薄く笑みを浮かべながら問い返す。奈南川の意図が解っているような気もしていた。 「何故?」 奈南川が顔を上げた。静かな視線はひどく強い。三堂は表情には出さず、それでも僅かにたじろ いだ。 「お前はそう思うことは無いか」 すこし間をあけ、奈南川が問うた。 「私にとって、望まれた通りの形に育つということは、勝者になるために必然のことだった」 ゆっくりと、呟くように言う。 三堂は何も言わなかった。沈黙に耐え兼ねたように、デスクに置かれた観葉植物の、この季節に は不自然な緑がすこし揺れた。 「しかし、私は勝者なのか?」 「奈南川……」 奈南川が微笑む。三堂は動揺を隠そうと眼鏡を軽く押し上げた。 「少し前までは、これでいいのだと思っていた。この歳で今の地位を手に入れたのは勝者なのだ ということだと」 キラが現れるまでは、と奈南川が続ける。帰り支度は終わったらしかった。奈南川が静かに席を 立つ。 細い雲が赤く染まっていた。明日はきっと晴天だ。 「もしかしたらキラは、私たちにとっても救いだったのかもしれないな」 三堂を中に残して、ドアがきっちりと閉められる。 名前を呼ぼうとしたが声には出ない。 奈南川がコートを手に取る音が、まだ部屋の空気に残っているような気がした。

あの歳でみんな部長とか、ヨツバグループは凄すぎる…! 尾々井でも若すぎるぐらいですよね。さすがは四葉台之助。 と、そういうことが言いたかったのでした。