迷路 幾言か言葉を交わすと、光を纏ったようなその少年は、人の波にのまれて視界から消えてしまった。 彼の気配が逃げて行くように、クィレルは右手をそっと開く。記憶ではなく、右手がしっかりとこ の感触を憶えていた。ふつふつと穏やかに、それでも確かに憎しみが腹の底から沸いてくるのを感 じる。 ハリー・ポッターは、クィレルの嫌いな種類の人間だった。 自分のような弱さを持たず、理解しようともしない強い人間。 パブの、消えかけた小さな蝋燭の灯りを眺めながら、クィレルはある一人の人間を思い出した。 はじめ、クィレルがホグワーツにきて間も無い頃、彼はあまり人から好かれているようには見えなか った。毎晩、皆が雑談を楽しんでいるときも、一人で、研究室で魔法薬のなべを掻きまわしていたし、 聞いた限りでは生徒の評判もよくないらしかった。 それでも、話しかけると的確な答えを返してくれた。調べても解らなかったことも彼に聞くと解かっ た。信頼していた。好ましい人物だと思った。生徒たちが彼を好いていないのも、彼らが自分のため になることが何なのかをよく知らないためなのだと。彼がいたというだけで、ホグワーツに来たのは 正解だったと思った。聞いていたよりもずっと優しい人間で、実はそれ以上に淋しい人なのだと知っ た。出来ることなら彼を救いたいと本気で思っていた。それこそが自分のなすべきことなのだと。 それでも、最後まで彼を信じきれなかったのはなぜか。 『お前は本当にそれを望んでいるのか?』 彼の言葉が脳裏を巡る。 何かから、逃げるためなのではないのかと。 まるで見当違いな意見。 信じていたものに裏切られた虚無感。 その頃からだったろうか。すこしづつ、彼に対する感情に、負のものが混じりはじめたのは。 やがて、彼もまた闇の帝王に仕えていることを知った。 しかしそれが何だというのだ。 彼はクィレルを騙して利用しようとしているのだ。 今までの態度は全て演技にすぎなかった。 「クィレル先生?」 声に呼び覚まされて、思考の中とあまり変わらない薄暗さのパブへと意識が戻る。 蝋燭の火はすでに尽きて灰になっていた。 「ああ」 バーテンが怪訝そうにクィレルの表情を覗き込んでいた。 「す、すみません、少し、か、考え事をしていて」 いつものどもった声で、少し笑い、アルコールの弱い酒を一杯だけ注文する。 「こ、こ、今度の授業の構想を練っていてね。どうしようか、ま、迷っているんだよ。 何せ、今年はあの、ハ、ハ、ハリー・ポッターが入学してくるのだから」 訊かれもしないのにそんなことを呟いて、安物の酸い酒を口に含む。 これが、気弱なクィレル教授のあるべき姿だった。まさか誰もどもりのクィレルが、闇の帝王と結 託しているなどとは夢にも思わないだろう。 ただ一人をを除いては。 「彼は私を陥れるつもりなんだ」 クィレルは、自分自身に言い聞かせるように、ゆっくりと言った。 計画は順調に運ばれていた。 クィレルにとっても、ボルデモートにとっても。 戻るべき道などもう用意されてはいなかった。 まるで出口の無い迷路の中に立たされているようだ。 クィレルは堪えきれなくなって喉の奥でくっと笑い、グラスを一気に乾かした。

クィレル先生については何か一つくらい書いておきたくて。
それで書いたのですが、なんだかクィレル氏は予想以上に単純な人になってしまうし、ストーリーは鬱陶しい展開に
なってしまうしで。。。; 散々ですね;;
機会があれば(そして読んで下さる方がもしいらっしゃったら 苦笑)また書きたいです。
クィレル先生好きなんです。セブルスやルシウスみたいな華やかさは無いけれど、あの後ろめたい感じの性格が(笑
やっぱりマイナーなCPですよねクィレスネって。

それにしてもタイトルが無理やりつけた感に溢れてるのはなんでだろう。