雪 暖炉の消えかけた火に幾本かの薪を放りこむ。 建物の外の音は昨日から降り続く雪に吸い込まれ、辺りにはぱちぱちという炎の音しか無かった。 いつもと変わり無い部屋の隅に、髪を雪で濡らしたちいさな子供が蹲っている。先刻まで雪の中 でふるえていたところを見つけ出したのだった。 グリフィンドール生の悪戯けで、寮の中に入れなくされてしまっていたらしかった。 最近の彼らの悪戯は度が過ぎている、とフィルチは思った。手加減という言葉を知らないのか、 それとも虫の好かないスリザリン生など、どうなっても構わないというのだろうか。 感覚の麻痺していた体がようやく溶けたはじめたようで、セブルスはフィルチが貸し与えた本の 頁をゆっくりめくっていた。 黄味を帯びた、劣化の進んだ紙が、セブルスの指に触れるたびにかさりと音を立てる。中には絵 とその説明が小さな文字でびっしりと書かれていた。 フィルチは古い本に真剣に見入る横顔を、邪魔をしないように注意しながらそっと伺った。きれ いに拭き取ったはずの泥がまだ少し残っている。 それを拭ってやってから、寒くはないかと問い掛けた。唇が酷い色だった。 セブルスは、いいえ、と答えて押し黙った。 それから何か言いたげに唇を少し動かして、諦めたように項垂れ、所在無さげに視線を再び本の 上に落とす。 しばらく待ったが言葉の出てきそうな様子は無く、暖炉が代わりに答えるように少し勢いを増し た。 「その生き物を知っているか?」 低い小さな声にセブルスは反射的に顔を上げる。見上げた視線がフィルチの、意外なほど穏やか な笑顔にぶつかった。 開かれた頁には『吸魂鬼』というタイトルに、恐ろしげな挿絵が添えられている。 「ええ」 フィルチのそれよりは大きな、それでもまだ小さい声でセブルスは返した。 「名前だけなら聞いたことがあります。幸せを奪ってしまう恐ろしい化物なんでしょう?」 フィルチは口角を少し上げて、セブルスの答えを肯定する。 「そう、彼らが人間から得ようとするのは、不幸な記憶ではなくて楽しい思い出だ」 そうして穏やかに言った。 「彼らは可哀想な生き物だよ。他人のもつ幸せを食べて生きても、まだ苦しまなければならない」 セブルスは大きな目をしばたいた。 インクのかすれた挿画と目の前の男を見比べる。 彼もまた、この吸魂鬼のように苦しんでここまで来たのだろうか。 もしかしてそれを溶かすことは出来ないものかとセブルスは考えた。 けれど、迷惑をかけ続けている身で、そんなことを思うのがすでに筋違いというものかもしれな い。 セブルスは暖炉の明るい光をぼんやりと眺め、それに少しの嫉妬を覚えた。少なくともこの光は、 物理的な寒さを溶かすことが出来るのだから。 暖かさにずいぶん馴染んで、窓の外に目をやった。生い繁る木々はいやというほど雪を乗せて低 く頭を垂れている。 突如、風が大きな声で唸った。 雪はいっこうに止む気配を見せなかった。
もうすぐクリスマスだから、クリスマスっぽい話を書きたかったんです。クリスマス…。 どこがクリスマス? ていうかそもそもどこが雪なのか。我ながら理解に苦しみます。苦笑。 タイトルつけるのって本当に苦手。 それはそうと、あのね、セブの普段の唇の色はコーラル・ピンクなんです。これだけは譲れない。 ローズピンクとかでもいいかな。でもやっぱりコーラルピンクの唇って妙にやらしいくて好きですv